歯科医院で「重度の歯周病です」と告げられ、戸惑いを感じる方は少なくありません。痛みがないまま進行することも多い病気だからこそ、突然「重度」と言われても実感が湧かず、「もう手遅れなのでは」「本当に抜くしかないのか」など、さまざまな不安が頭をよぎります。 しかし、重度歯周病と診断された場合でも、必ずしもすべての歯が抜歯の対象になるとは限りません。歯周病治療はこれまでの研究と実績の蓄積により、かつては「保存困難」と判断されていた症例でも、条件次第では歯の温存が検討されるケースもあります。 本記事では、日本歯周病学会の専門医・認定医が在籍する当院が、重度歯周病の正しい捉え方や抜歯が必要となる医学的な基準、歯を残すための治療などをご紹介します。
まずは、ご自身の状況が医学的にどのような段階にあり、どのような状況なのか、その全体像を正しく把握することが大切です。
歯周病は進行の程度に応じて、「歯肉炎」「軽度」「中等度」「重度」の大きく4段階に分類されます。歯周病の進行度を判断する際には、歯周ポケットの深さや歯を支える骨(歯槽骨)がどの程度失われているかといった点が重要な目安となります。
一般に、重度歯周病は歯周ポケットが6mm以上、歯を支える骨(歯槽骨)が歯根長(根っこの長さ)の半分以上、場合によっては3分の2以上失われた状態です。
この段階では、歯そのものは残っていても、それを支える歯ぐきや骨が大きく失われており、噛む機能や将来的な安定性の面で、不安定な状態と評価されます。また、歯の動揺(ぐらつき)や噛みにくさなど、生活の質に直結する問題が表面化してきます。
歯周病は、歯垢(プラーク)中の細菌の感染により、歯ぐきに炎症が起こる病気です。この炎症が長期間続くと、細菌と戦う体の防御反応の影響で、歯を支えている骨(歯槽骨)が少しずつ破壊されていきます。
骨の破壊が進むと歯は支えを失い、やがて前後左右に揺れやすくなります。そうすると噛む力がうまく分散できず、特定の歯に負担が集中し、歯の揺れが増して炎症が悪化するという悪循環に陥ります。
さらに、見た目の変化(歯ぐきが下がる・歯が長く見える・すき間が広がる)も起こりやすく、清掃性が落ちることで再び炎症が強まることも少なくありません。
以下の症状が認められる場合、歯周病が重度の段階に進行している可能性があります。この状態を放置すればするほど、歯を残せる可能性は低くなっていくため、できるだけ早く専門的な診断・治療を受けることが重要です。
重度歯周病を治療せずに放置すると、1本の歯の問題にとどまらず、お口全体、さらには全身の健康にも影響を及ぼす可能性があります。
1本1本の歯はそれぞれが独立しているように見えても、実際にはお口全体のバランスの中で機能しています。そのため、重度歯周病の歯を治療せずに放置すると、その影響が周囲の歯にも及び、いくつかの問題が連鎖的に起こることがあります。
結果として、1本の歯の問題が、複数の歯を失う原因につながるケースも少なくありません。
重度歯周病が進行した歯の周囲には多くの細菌が存在し、その影響は隣り合う歯やそれらを支える骨にまで及んでいきます。炎症の広がりは周囲の歯の寿命を縮め、お口全体の健康を損なう原因になります。
揺れている歯を無意識にかばうようになると、噛む力が一部の歯に偏りやすくなります。その結果、これまで問題のなかった歯に過度な負担がかかり、割れたり、揺れが生じたりすることがあります。このようにして、噛み合わせ全体のバランスが少しずつ崩れていく状態を「咬合崩壊」といいます。
歯周病はお口の中だけの病気と思われがちですが、実際には全身の健康とも深く関係しています。これは歯周病が進行すると、歯ぐきの炎症部分から細菌や炎症物質が血管内に入り込み、血流を通じて全身に影響を及ぼすことがあるためです。
近年の研究で、歯周病は以下のような全身疾患との関連が指摘されています。
重度歯周病の治療は単に歯を残すだけでなく、全身の健康を守るための治療でもあるのです。
重度歯周病と診断された方が、最も強く不安を感じるのが「歯を残せないのか」という点です。ここでは、歯科医師がどのような考え方で「抜歯」か「保存」かを判断しているのか、その基準を整理します。
歯科医師が抜歯を勧める場合、それは感覚的な判断ではなく、医学的な理由に基づいています。主に次のような状況では、抜歯が妥当と判断されることがあります。
その歯を残すことで炎症が周囲に広がり、歯槽骨の破壊がさらに進行し、隣の健康な歯まで失う危険性が高いケース
治療を行っても、噛む力に耐えられるだけの骨が回復せず、痛みや腫れを繰り返す可能性が高いと予測されるケース
早い段階で抜歯を行い、骨量を温存したうえでインプラントや入れ歯などの治療につなげた方が、長期的な生活の質(QOL)が高いと判断されるケース
一方で、歯科医院で「抜歯」と診断された場合でも、より高度な診断と治療技術を用いれば「保存可能」と判断されるケースもあります。 歯を残せるかどうかを左右するポイントは、「残っている骨の形状」と「診断・治療を行う歯科医師の専門性」です。
骨が全体的に均一に減っている場合は難しいことが多いですが、部分的に深く吸収している「垂直性骨欠損」では、骨を再生させる治療によって回復が期待できる場合があります。
こうした見極めには精密な診査・診断と、それらを読み解いて治療計画に落とし込む豊富な臨床経験が不可欠です。
重度歯周病の治療は短期間で完結するものではなく、状態によっては半年から1年以上かかることもあります。歯を残す可能性を最大限に追求するうえでは、段階的に治療を進めていくことが重要です。
歯周病治療は、はじめに徹底した細菌のコントロール(プラークコントロール)を行うのが基本です。これが不十分な状態では、次にどのような治療を行っても、十分な効果を発揮することができません。
主な治療内容
歯周基本治療では器具が届かない深い歯周ポケット(4mm以上など)に対して行います。
代表的な方法の1つが「フラップ手術」と呼ばれる手術です。局所麻酔下で歯ぐきを切開し、目視できる状態で歯石や汚染された組織を除去します。炎症のコントロールと同時に、次の「歯周組織再生療法」の前段階として行われることもあります。
重度歯周病で歯を残すための有効な治療法の1つです。薬剤や特殊な膜を使って、失われた歯ぐきや骨の再生を促します。
ただし、適応には条件があり、すべてのケースで良好な結果が得られるわけではありません。骨欠損の形態や炎症の状態などにより適応が限定されるほか、治療効果には個人差があります。
さらに保険適用外(自由診療)を含むため、治療前に費用、治療期間、想定されるリスク(術後の腫脹・疼痛、十分な再生が得られない可能性等)を含め、慎重に検討することが重要です。
歯が生えてくる時に分泌されるタンパク質を主成分とした薬剤(ゲル)を塗布し、組織の再生を誘導します。世界中で長年使用されており、高い安全性が認められています。
日本で開発された「細胞増殖因子(bFGF)」を主成分とする薬剤です。血管の新生や細胞の増殖を促し、骨の再生を助けます。
骨が欠損した部分に「メンブレン」という特殊な膜を設置する方法です。歯ぐきが入り込むのを防ぎながら、骨が再生するスペースを確保し、組織の回復を図ります
重度歯周病の治療を終えたとしても、それで「完治」ではありません。
一度重度まで進行した方は、そうでない方に比べて再発リスクが高いため、治療後の管理が極めて重要になります。
治療後は、SPT(サポーティブ・ペリオドンタル・セラピー)と呼ばれる安定期治療へ移行します。通常は3〜4か月に一度、歯科医院で専門的な清掃を行い、日常の歯磨きでは取り切れない汚れ(プラーク・歯石)を除去します。こうした定期的なメンテナンスが、将来の抜歯リスクを大きく下げるための非常に重要な役割を果たします。
治療後も安定した状態を保つためには、日々のセルフケアも「治療の一環」ととらえることが大切です。歯ブラシだけでは歯面の汚れを完全に取り除くことは難しいため、歯科衛生士の指導に従って、歯間ブラシやデンタルフロスといった補助器具も正しく使用しましょう。
また、生活習慣の見直しも予後を支える大きな柱となります。なかでも喫煙は、歯周病を悪化させる代表的なリスク要因ですので、治療後は禁煙に努めましょう。くわえて、規則正しい生活やストレス管理も、再発抑制につながります。
重度歯周病と診断されたとき、多くの方が強い不安を感じます。放置すれば歯を失う可能性は高まりますが、専門的な診断と治療によって歯を守れる余地が残されている場合もあります。
当院では、日本歯周病学会の専門医・認定医が精密な診査・診断を行い、重度歯周病を含む症例にも対応しています。
「他院で抜歯と言われたが納得できない」「自分の歯を残すために、できることを尽くしたい」
そうお考えの方は、一度当院にご相談ください。後悔しない選択を一緒に検討していきましょう。